当科における人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty)の治療成績

八戸平和病院 整形外科 藤井 一晃

平成17年4月に八戸平和病院整形外科に赴任以来、当科では関節外科、特に股関節手術を中心として治療を行なっています。今回はその中でももっとも多く行なわれている人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty)(以下THA)の治療成績、特に合併症の発生率を調査し、現在行なっている合併症への対策および最新の手術手技を報告することを目的としました。

 


対象と方法

対象は平成17年4月から平成19年9月までの2年半の間に当科で行なったTHA 104例110関節を対象としました。疾患は変形性股関節症97関節、大腿骨頭壊死7関節、関節リウマチ6関節。男性24例25関節、女性80例85関節、年齢は平均61.0歳でした。

THAは変形の程度によって手術時間、難易度がことなります。特殊操作のいらないTHAを1群、臼蓋側に骨移植を要したTHAを2群、高位脱臼のため転子下短縮骨切り術を要したTHAを3群としそれぞれTHAの合併症である輸血、感染、肺梗塞、脱臼の発生率について検討しました。


特殊操作のいらないTHA(1群)64関節

写真:術前レントゲンTHAでは骨頭を摘出し、骨盤側の臼蓋を削り適切なサイズのsocketを設置し、大腿骨側は髄腔内を削り適切なサイズのstemを設置します。

 

 

 

 

人工股関節置換術特殊操作のいらないTHA1群は64関節あり、手術時間は平均1:05、出血量は平均154gで輸血を要した例はありませんでした。感染、肺梗塞を生じた例はなく脱臼が3例で生じ1例で再置換術を要しました。


臼蓋側に骨移植を要したTHA(2群)37関節

写真:術前レントゲン変形が強くなり高い位置に骨頭があり、元来の位置である原臼にsocketを設置する時、骨の欠損部ができるため臼蓋に骨移植を要する場合があります。

このTHAを2群としました。2群は37関節あり、手術時間は平均1:36、平均出血量287gで輸血を要した例はありませんでした。脱臼は3例に生じましたが徒手整復後再脱臼は生じておりません。肺梗塞が1例で生じました。幸い救命することができましたが、低酸素脳症による後遺症を残しました。

 

 

写真:術後レントゲンこのTHAを2群としました。2群は37関節あり、手術時間は平均1:36、平均出血量287gで輸血を要した例はありませんでした。脱臼は3例に生じましたが徒手整復後再脱臼は生じておりません。肺梗塞が1例で生じました。幸い救命することができましたが、低酸素脳症による後遺症を残しました。

 


転子下短縮骨切り術を併用したTHA(3群)9関節

写真:術前レントゲン・3DCTまた最近では完全に高位に脱臼している変形性股関節症に対しても、手術手技が開発されました。

 

 

 

 

 

写真:術後レントゲン高位脱臼で大腿骨短縮を併用したTHAを3群といたしました。手術時間は平均2:30、平均出血量は494gで輸血を要した例はなく、感染、肺梗塞を生じた例もありませんでした。脱臼は3例に生じましたが徒手整復のみ行ないました。


当科におけるTHAの合併症と対策

THAは1960年代に開発されて以来、急速な進歩をとげ、疼痛がなくなり歩行能力の改善、日常生活上で活動能力の向上、社会復帰という点では申し分ない成績が得られており、現在日本では年間約3万件の手術が行なわれていると言われております。最近では整形外科の分野でも専門化が進んでおり、日本各地で股関節センター、人工関節センターが設立され初めました。

現在当科では関節外科専門として股関節外科手術を中心として治療を展開しております。合併症をいかに阻止し、浸襲を少なくするかが今後の課題と思われ演者が赴任して以来2年半の治療成績について検討いたしました。

出血に関しては低血圧麻酔の併用、専属スタッフの協力により手術の迅速化をはたすことができ輸血はまったく不要になりました。貯血も行なっておりません。THAの術後感染発生率は報告では1?2%といわれていますが、当科では0%でした。肺梗塞は1例で、脱臼は8例で生じ1例で再置換術を要しました。


肺梗塞の予防

写真:術前レントゲンTHA後の静脈血栓、肺梗塞の発生は日本でも増加傾向にあります。術後は弾性ストッキングの着用、フットポンプを全例に使用しております。また安静期間が長くなると肺梗塞の発生率が高くなりますので、術後2日目より車椅子移動、可能であれば歩行を許可しております。

また今年6月より静脈血栓,栓塞予防薬としてフォンダパリヌクスナトリウムの使用が認可され当科でも現在使用しております。肺梗塞治療の有力な武器になると期待しております。


脱臼の防止について

写真:22mm head・36mm head脱臼は110関節中8関節に生じましたが、脱臼予防パンフレット、ビデオを作成することにより認識が高まるように指導しております。またH19より使用可能となった36mm大型ヘッドの使用により脱臼の発生率を低減することが可能と思われます。大型ヘッドを使用した例では脱臼の発生はみられなくなりました。


当院における人工股関節置換術の工夫  少ない負担で早期に回復

合併症の予防とともに当科では少ない負担で早期に回復できるように工夫しております。最小浸襲手術minimum invasive surgery(以下MIS)を取り入れています。人工関節の初期固定性も向上してきたため、2日後より車椅子移動、可能であれば歩行を許可することが可能となりました。また当院では常勤麻酔医が2人と贅沢な状態にありますので、多大な協力を得ることができほぼ全例に低血圧麻酔、硬膜外チューブの留置を行なうことにより出血量の軽減、術後疼痛の軽減を可能とし早期術後回復をめざしております。


MIS(minimum invasive surgery)最小浸襲手術

写真:従来の皮切MISについて説明させていただきます。最近マスコミでも報道されるようになりました。手術器具の進歩により10cm以下の皮切でTHAを行なうことが可能になりました。もちろん全例に可能ではなく変形の少ない今回の報告での1群の76%で可能でしたが、肥満、関節拘縮の強い例では従来の皮切を要しました。MISを施行している施設はまだ少なく今後も積極的に行いと思います。

THAの治療成績は安定しており今後は浸襲、合併症の発生をいかに少なくするかが重要です。手術機材の改良、麻酔科、手術室、病棟、リハビリスタッフの協力により、より成績を向上させることが可能であり、合併症0をめざし今後も治療を進めたいと考えております。