高度の医療技術を要する人工股関節置換術

人工股関節置換術はゆるみを生じることがあり、入れ換える手術(再置換術)が必要になることがありますが、熟練を要します。また完全に脱臼を生じている場合などは手術ができないとされていました。しかし、手術技術の進歩によりいずれも安全に手術が可能となってきております。私も積極的に取り組んでいますのでご紹介いたします。

 

転子下骨切り術を併用した人工股関節置換術の成績

八戸平和病院 整形外科 藤井 一晃


目的

殿筋内脱臼、大腿骨骨切り術後の変形性股関節症に対する手術方法として、当科では人工股関節置換術(以下THA)に転子下骨切り術を併用し対応してきた。本研究では治療成績の評価を目的とした。


対象と方法

男性1例女性8例 平均年齢62.8歳(47-80歳)
  経過観察期間 平均2年4ヶ月(1年-5年)
  殿筋内脱臼、高位脱臼性股関節症7例
   →THA+転子下短縮骨切り術
  大腿骨骨切り術後2例
   →THA+転子下内反骨切り術
  使用機種
   臼蓋側  Duraloc 6例 Pinnacle1例 KTplate2例
   大腿骨側 全例S-ROM


手術方法

step 1側方アプローチにて展開
大腿骨頭を切除
大腿骨側のreamingを行なう
S-ROM 近位sleeve下で骨切り

step 2臼蓋側の展開
臼蓋socketを原臼位に設置

step 2骨切り近位にstemを装着し仮整復
遠位を適切な長さで骨切り
脱臼性股関節症、高位脱臼の症例
→短縮骨切り術
大腿骨骨切り術後の症例
  →喫状骨切り術

step 2骨切り部を接合、整復
骨切り部の回旋に注意


評価方法

JOA scoreの推移、合併症の有無
術前後の脚長
調査時のレントゲン所見
(骨切り部の癒合状態、looseningの有無


結果

JOA score 平均41.2→術後85.8
脱臼2例 坐骨神経麻痺、感染(-)
平均2.2cm(0-4.5cm)の延長が得られた
骨切り部骨癒合術後3-4ヶ月時に癒合、偽関節(-)
loosening(-)


肺梗塞の予防
症例 年齢 性別 経過観察期間 使用機種 手術時間 出血量 術前後JOA 術前後の脚長 合併症
67歳 5年 Duraloc S-ROM 2:45 460g 42→75 3cm延長 (ー)
62歳 5年 Duraloc S-ROM 2:40 350g 42→88 2cm延長 (ー)
69歳 2年8ヶ月 Duraloc S-ROM 2:31 335g 42→89 1cm延長 (ー)
47歳 2年 Duraloc S-ROM 2:33 352g 42→88 4.5cm延長 脱臼
52歳 2年 Duraloc S-ROM 2:31 335g 44→96 変化なし (ー)
62歳 1年9ヶ月 Duraloc S-ROM 2:30 290g 42→80 3cm延長 脱臼
80歳 1年1ヶ月 KTplate S-ROM 2:33 420g 38→82 2cm延長 (ー)
69歳 1年 Pinnacle S-ROM 2:10 400g 39→90 2cm延長 (ー)
58歳 1年 KTplate S-ROM 2:34 795g 40→84 2cm延長 (ー)

症例3

術前X-P
Lt hip j
ROM flex70°ext-10°
abd20°add20°
extrot20°introt20°
SMD rt76cm lt73cm
Trendelenburg +
JOAscore 42

症例3

術直後X-P
THA+大腿骨内反骨切り術
手術時間 2:45
出血量 516g
術後脚長74cm
1cm延長


症例5

術後経過


症例5

52歳、女性

術前X-P
Rt hip j
ROM flex70°ext0°abd10°add20°
extrot20°introt10°
SMD rt70cm lt74cm
JOAscore 44

術前3DCT


症例5

52歳、女性


症例7

80歳、女性

術前X-P
Lt hip j
ROM flex90°ext5°abd25°add5°
extrot5°introt45°
SMD rt75cm lt70cm
JOAscore 38

術前3DCT


症例7

術後経過

術直後X-P
THA+大腿骨短縮骨切り術
手術時間 2:33
出血量 420g
術後脚長74cm
2cm延長 術後3日より歩行開始

経過観察時
術後1年
JOA 84


考察

脱臼性股関節症に対する手術の問題点3)
臼蓋形成不全、大腿骨および骨盤の発育不全、脚長差
著しい筋萎縮、筋力低下
→技術的に困難であり手術適応とされることが少なかった

当科における脱臼性股関節症の手術適応
歩行障害、疼痛、坐骨神経刺激症状がある症例4)
歩容の改善目的に手術を希望される場合も適応と考えている

手術方法
2期的手術two stage operation 1) 4)
(軟部組織解離後直逹牽引→THA、創外固定による牽引→THA)
高位にsocketを設置する方法などがあるが当科では
転子下骨切り術を併用したTHAを選択している

転子下骨切り術を併用したTHA
利点
1回の手術で済む、坐骨神経麻痺の危険性がない
展開が十分に得られ原臼位の設置が容易に行なえる

問題点
stemのゆるみ、骨切り部での偽関節2)5)
→S-ROM stemにより解決された

Socketの設置位置を原臼位としている理由3)
十分なbone stockがありsocketをより安定に設置
内方化が得られ生体力学的に有利、外転筋機能の向上を期待できる
脱臼位での設置は機械的ゆるみを生じやすい

大腿骨骨切り術部の処置について
斜め骨切り、step cut骨切りで接触面を多くする方法5)
→手技が煩雑である
大腿骨軸に垂直に骨切りし、接触面を合わせるのみで
偽関節の発生はなかった


S-ROM total hip systemの特徴

近位のスリーブと遠位のステム
からなるmodular型の人工関節

大腿骨近位頚部と遠位骨幹部に
適切なサイズが設置できる

遠位部のフルート(縦溝)構造
回旋に対する骨切り部の安定性増加

ステム遠位のスロットにより
遠位部に柔軟性をもたせ
固定性が増強される

フルート構造により
回旋に対する安定性
が増強する


まとめ

1. 殿筋内脱臼、高位脱臼性股関節症、大腿骨骨切り術後の症例に対し転子下骨切り術を併用したTHAを行なった。
2. 十分な展開が得られ、全例socketは原臼位に設置可能であった。
3. S-ROM stemを使用することにより骨切り部で良好な固定性が得られた。
4. 今後長期の経過観察を要するがほぼ満足のいく結果が得られている。

参考文献
1)赤津ら:人工骨頭置換術に転子下骨切りを必要とした脱臼性股関節症の3例.臨整外30巻6号:719-723,1995
2)David J.Yasgur et al:Subtronchanteric Femoral Shortening Osteotomy in Total Hip Arthroplasty forHigh riding Developmental Dislocation of the Hip.The Journal of Arthroplasty:Vol.12No.8:880
  -888,1997
3)稲尾ら:脱臼性変形性股関節症に対する全人工股関節置換術の治療成績.臨整外28巻11号:1989-1295,1993
4)熊沢ら:成人脱臼性股関節症に対する人工股関節置換術.Journal of Joint Surgery:Vol.16 No.1:90-96,1997
5)松浦ら:S-ROM total hip systemを用いて転子下短縮骨切り術を併用し人工股関節全置換術を施行した1例.整形外科53巻4号:425-427,2002

再置換術

15年前に他医にて人工股関節置換術が行われました。
平成14年になり右股関節から大腿部の疼痛が強くなり受診されました。
大腿骨側は人工関節が骨を突き破って、骨外に出ています(図1)。

私は日仏整形外科学会の交換留学生としてフランスにて数多くの再置換術を経験させていただきました。その経験をいかし、再置換術を手掛けております。
再置換術では骨欠損(骨がなくなっている状態)の場合が多く、手術が困難な場合が多いのですがハイドロキシアパタイトという人工骨で対処しております。

図2は手術直後のレントゲン。図3は手術後1年のレントゲンです。人工骨が白くなってきています。これは人工骨が体になじんできた証拠です。人工骨により他の人の骨を用いたり、自分の他の場所から骨を採る必要がなくなりました。
この患者様は現在疼痛なく一本杖で元気に歩行されております。

図1 手術前

図2 手術直後 図3 手術後1年

 

Copyright 2007 Kazuaki Fujii. All rights reserved.